1970年前後は個性的なバンドが数多く存在したが、このドアーズというバンドはその中でもかなり異質。
その頃のアメリカのバンドの特徴といえば、フォークやカントリー臭漂う曲調が多かった。
しかしドアーズにそれは殆ど無い。
ジム・モリソンの陰湿なボーカルと湿り気を感じる曲調に、最初はイギリスのバンドだと思っていた。
メンバーは全員際物揃いだが、カリスマ的ボーカリストのジム・モリソンは更に際立っている。
どんな人物か知らない人の為に、一応狂人の映像を貼っておく。
過激なパフォーマンスで知られる「パンク界のゴッドファーザー」ことイギー・ポップ。
実は彼のパフォーマンスもジム・モリソンの影響下にある。
ある時ドアーズのライヴでジム・モリソンが、「さっさと家に帰ってマスでも掻いてろ!このクズども!」と、客を煽っていた。
それを見たイギーは「こんな暴言吐いて許されるんだ!これはやるしかない!」と思ったとか。
ジム・モリソンは読書家で、彼の詩は幾人もの哲学者や詩人からのインスピレーションによるもの。
また高校時代には『悪魔学』に関する本にも興味を持ったらしい。
そんなフロントマンを支える他のメンバーは、レイ・マンザレク(Key)、ロビー・クリーガー(Gt)、ジョン・デンズモア(Dr)。
お気付きと思うが、ドアーズはベースレスのバンド。
レイ・マンザレクの左手がベース代わりの旋律を奏でる。
ブルースだけでなくジャズ、クラシックにも精通しているキーボーディストである。
そしてギターのロビー・クリーガーは、音楽的ルーツがフラメンコ。
後にブルースやジャズからも音楽的要素を吸収。
フラメンコ式フィンガーピッキングによる独自のサウンドとフレーズは、当時のカントリー、ブルースがルーツのギタリストとは一線を画すスタイル。
ドラムのジョン・デンズモアも、当時のロック界では珍しくジャズもこなす幅広い表現が可能なドラマー。
このメンバー達の演奏に、狂気に満ちた詩を乗せる『悪魔学』のジム・モリソン。
これが【ドアーズ】というバンドの正体である。
普通である訳がない!
という事で、このドアーズの記念すべき1stアルバムに収録されてる曲をいくつか紹介する。
アルバムの一発目を飾る曲。
イントロからレイのオルガンが鳴り響く。
70年代に入ると急に増えていく事になるが、ここまでオルガンが強調されたバンドサウンドは当時は珍しい
そこに誰とも似つかない悪魔の囁き。
これだけで他とは違うと誰もが感じたに違いない。
続いて紹介する曲は多分ドアーズで最も人気があり、そして知名度があると思われる「ライト・マイ・ファイア」。
「ドアーズ聴いた事が無い」という人でも、このオルガンに聞き覚えのある人は多いと思う。
オルガンとギターでそれぞれ2分超え(合計4分強)の間奏が入るが、シングルではカットされている。
「それを聴かずしてどうする?」と思ってしまうが。
イントロは元々ギターだったようだが、イントロをギターで弾いてるライヴ音源も存在する。
次はアルバムの最後に収録されてる「ジ・エンド」。
映画『地獄の黙示録』のメインテーマとしても使用された。
「ライト・マイ・ファイア」と双璧をなす名曲だが、これが10分超えの大作。
これを最初から最後までじっくり聴く人は少ない。
が、私は多分生涯で100回は聴いている。
「かったるいなぁ」などと思う所は一瞬たりとも無い。
ギターによるオリエンタルな雰囲気のイントロ。
序盤のドラムのジョンが奏でるタンバリンが、シンバルに切り替わる瞬間がたまらない。
ここからのドラム、よく聞くと面白い。
小節の4拍目だけにリムショットによるアクセントが入るリズムパターン。
そして節目のフィルではダイナミックに、そしてパワフルに叩きまくる。
基本は呟く、または語りかけるようなジムのボーカル。
所々でその声が力強くなると、周りの楽器群もそれに呼応して音量を上げていく。
中盤の聴きどころはそのライヴのようなメンバーの一体感、それと強弱で尺長の曲に抑揚つける演奏力。
終盤に近づいてくると、コアなファンには結構有名で衝撃的な歌詞をジムが叫ぶ。
「父を56して母を手に入れる」。
それを聞いた楽器群もテンション上がって発狂する。
その後少し落ち着くように見せかける。
が、ジムの叫びを皮切りに徐々に演奏のスピードを上げていく。
そう、この曲のテンションがマックスになるのは実はここから。
・・・と、まぁ、前置きが長くなりましたが、知らない人も上記の事を踏まえて是非じっくりと聴いてみてください。
ドアーズで絶対に聴くべき曲はこの「ジ・エンド」しかあり得ない。
ドアーズの全てがこの曲に集約されている、と個人的には思っております。